後立山(長野) 布引山(2683m)、鹿島槍ヶ岳北峰(2842m)、鹿島槍ヶ岳南峰(2889.2m) 2024年6月22日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 0:24 大谷原−−1:25 西俣出会−−2:47 高千穂平(標識)−−3:47 冷乗越(県境稜線)−−3:57 冷池山荘−−4:04 テント場−−4:51 布引山−−5:30 鹿島槍ヶ岳南峰 5:35−−5:58 鹿島槍ヶ岳北峰 6:17−−6:42 鹿島槍ヶ岳南峰 7:17−−7:42 布引山−−8:22 テント場−−8:29 冷池山荘−−8:40 冷乗越 8:55−−9:45 高千穂平(標識)−−10:24 西俣出合 10:31−−11:10 大谷原

場所長野県大町市/富山県中新川郡立山町
年月日2024年6月22日 日帰り
天候晴後薄曇
山行種類ほぼ一般登山(僅かに残雪あり)
交通手段マイカー
駐車場大谷原に駐車場あり。今年も橋を渡った対岸の駐車場も利用可能だがそれを知らない登山者が多い
登山道の有無あり
籔の有無無し
危険個所の有無無し
山頂の展望いずれの山頂も晴れれば大展望
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コメント関東甲信が梅雨入りした翌日だが好天予報で体力テストで鹿島槍へ。結果的には北峰まで往復できてコロナ前の状態にかなり戻ってきていた。心配していた赤岩尾根最上部の残雪は少なく、雪切されていてアイゼン、ピッケルが不要な状況だった。高山植物の開花はかなり進んでミヤマキンバイ、ハクサンイチゲは最盛期だった。ほぼ夏山なのに空気の透明度は思ったよりも良くて奥日光、尾瀬の山々が見通せた。すれ違った人数は1桁でかなり少なかった


ハクサンイチゲのお花畑。まだ6月後半なのにここまで開花が進んでいた


夜中午前0時半に出発 ゲート
取水堰の照明が眩しかった(いつもは消灯している) 北股本谷で500ccの給水
北股本谷は堰堤内トンネルで対岸へ抜ける 手すりが取り付けられている=今年の整備が始まっている
標高1720m付近の石室 高千穂平標識(標高2045m)
白樺平(標高2278m) 安曇野方面の夜景
最初のガレトラバースは雪は消えていた 2つ目のガレトラバースは雪切されてアイゼン不要だった
県境の冷乗越(標高2440m) 冷池山荘。今年の営業の準備中だった
テント場にテントは皆無 標高2480m付近で残雪登場。雪と土の境目を歩く
次の残雪は雪切されているがカチカチで滑りまくった ここだけ軽アイゼン装着
標高2490m付近で夏道に乗りアイゼンを脱ぐ 4時26分に日の出。雲だと思っていたら空気の濁りだったようだ
空気の濁りの層を太陽が抜ける 日の出直後の日光連山。男体山まで直線距離約170km
振り返る。後続の姿はまだ見えない 剱岳のモルゲンロート
ミヤマキンバイ ミヤマキンバイの株。今が盛りだった
コイワカガミ ハクサンイチゲも今がピーク
布引山への登りは雪は残っていない 布引山山頂
布引山から見た牛首山への尾根。もう雪はほとんど消えてハイマツの激藪だろう
今年初のハクサンチドリ。布引山山頂だけで見られた おそらくミヤマハタザオ
クモマスミレ チシマアマナ
ハクサンイチゲのお花畑 標高2720m付近
鹿島槍南峰への最後の登りがきつい 鹿島槍南峰(山頂)
南峰から北峰を見る。どうやら雪は無いらしい 空身で北峰を目指すことに
コメバツガザクラがまだ咲いていた 岩壁帯も雪無しで危険無し
夏道はこの雪の下だが残雪上端を迂回した 稜線の北側には全く雪が無い
鞍部南側はまだ残雪に覆われていた シナノキンバイ
北峰分岐。キレット方面に雪は見えなかった イワウメ
鹿島槍北峰山頂。山頂標識は倒れていた 北峰から見たカクネ里雪渓(氷河)。氷河は残っているだろうか?
鹿島槍北峰から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
鹿島槍北峰から見た奥秩父、八ヶ岳、富士山、南アルプス(クリックで拡大)
鹿島槍北峰から見た奥日光
鹿島槍北峰から見た尾瀬燧ヶ岳、至仏山 鹿島槍北峰から見た平ヶ岳
鹿島槍北峰から見た後立山北部 鹿島槍北峰から見た白馬岳付近
鹿島槍北峰から見たキレット小屋。ヘリが荷上げしていた 鹿島槍北峰に雷鳥がいた。5mくらいでも逃げない
キバナシャクナゲ 岩壁帯をよじ登る
標高2850m付近 シコタンソウ。まだ花は咲いていなかった
イワオウギも花はまだ おそらくミヤマタネツケバナ
鹿島槍南峰再び。後続の男性が休憩していた 鹿島槍南峰から見た大谷原駐車場(右岸)
鹿島槍南峰から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
鹿島槍南峰から見た立山、剱岳、剱岳北方稜線
鹿島槍南峰から見た頚城山脈
鹿島槍南峰から見た奥日光
鹿島槍南峰から見た尾瀬燧ヶ岳、至仏山 鹿島槍南峰から見た平ヶ岳
鹿島槍南峰から見た白山 鹿島槍南峰から見た剱岳
鹿島槍南峰から見た剱岳北方稜線 鹿島槍南峰から見たウドノ頭、滝倉山、駒ヶ岳
鹿島槍南峰から見た爺ヶ岳への稜線 鹿島槍南峰から見た冷乗越と赤岩尾根上部
鹿島槍南峰から見た牛首山。やっぱり雪が無い ミツバオウレン
ミヤマダイコンソウはまだ咲き始め 布引山からの下り
タカネツメクサかな イワツメクサ
ミヤマカタバミ キヌガサソウ
サンカヨウ ショウジョウバカマ
シナノキンバイ 往路でアイゼンを付けた雪渓は帰りはツボ足でOK
葉が出る前のチングルマ。草ではなく木である シラネアオイ
テント場
ミヤマキンポウゲはまだ咲き始め ノウゴウイチゴかな
ヒメイチゲ イワナシがまだ咲いていた
冷池山荘 ペンキ塗りたての表示があった
冷乗越への登り返し 冷乗越(赤岩尾根分岐)
冷乗越から見た爺ヶ岳〜剱岳
冷乗越から見た種池山荘。7月1日営業開始予定 冷乗越から見た鹿島槍ヶ岳
赤岩尾根へと下っていく これから下る赤岩尾根
赤岩尾根唯一の残雪 チングルマが一輪だけ咲いていた
ツガザクラ 下部のガレトラバース
標高2300m〜2100m付近でマイヅルソウが咲いていた オオカメノキ
コケモモは咲き始め ミヤマダイコンソウ
ツマトリソウはマイヅルソウと同じ場所でたくさん咲いていた アカモノ
ハクサンシャクナゲ 白樺平
ニガナ シロバナニガナ
普通の白花のゴゼンタチバナ 緑色の花のゴゼンタチバナ
おそらくミヤマニガイチゴ 標高2000m以上でもタニウツギが見られた
今年初のヨツバシオガマ ツツジだが細かな種類は不明
標高1730m付近の遭難慰霊レリーフ 標高1600m付近の長い鉄階段
標高1550m付近から見た大冷沢 たぶんヤグルマソウ
ズダヤクシュは花が終わって種を付けていた 西俣出合の新標識
西俣出合のトンネル付き堰堤 デポされた自転車。ここまで漕ぐと相当疲れただろう
林道終点 林道終点から西俣本谷へ下って水浴び
林道終点のカラマツソウ 林道終点から見た鹿島槍南峰
タニウツギ。いつも見る種類より色が薄い キジムシロの花はほぼおしまい
取水堰の取水口。水は発電所から青木湖へ流れ込む 伐採現場
木の種類毎に分類されていた。これはブナ等の広葉樹 ゲートは開けてあり鎖の車止めあり
伐採作業の案内 大谷原左岸駐車場


見かけた花と開花状況

花の種類

開花状況

タニウツギ

林道〜標高2000mくらいで咲いている

カラマツソウ

林道終点のみ咲いていた。稜線ではまだ芽も出ていない

ズダヤクシュ

ほぼ終わり。赤岩尾根下部で見られる

アカモノ

樹林帯ではピーク

イワカガミ

花盛り。でも稜線のコイワカガミはこれから

ハクサンシャクナゲ

咲き始めかな

マイヅルソウ

標高2200m付近で花盛り。県境稜線ではまだ咲いていなかった

ツマトリソウ

花盛り

ゴゼンタチバナ

花盛り

ミツバオウレン

花盛り。赤岩尾根の樹林帯から県境稜線までの広範囲で咲いている

ミヤマニガイチゴ

花盛り

ヨツバシオガマ

赤岩尾根でのみ咲き始め

シロバナニガナ

咲き始め。赤岩尾根でのみ見られる

ニガナ

咲き始め。赤岩尾根でのみ見られる

ミヤマダイコンソウ

咲き始め

コケモモ

咲き始め

オオカメノキ

終わりが近い。。赤岩尾根でのみ見られる

ツガザクラ

咲き始め

チングルマ

まだ葉が出ていないものが多い

イワナシ

ほぼ終わり

ヒメイチゲ

花盛り

ノウゴウイチゴ

花盛り。冷池山荘〜テント場間だけで見た

ミヤマキンポウゲ

まだごく一部しか咲いていない。というか大半の株は芽も出ていない

シラネアオイ

赤岩尾根はおそらくピークで県境稜線は咲き始めかな

ミヤマキンバイ

花盛り。今回見た花の中では最も多かった

シナノキンバイ

咲き始め

ショウジョウバカマ

花盛り

サンカヨウ

花盛り

キヌガサソウ

花盛り

ミヤマカタバミ

花盛り

イワツメクサ

ごく一部しか咲いていない

タカネツメクサ

ごく一部しか咲いていない

ハクサンイチゲ

花盛り。既にお花畑を形成している

ハクサンチドリ

咲き始めかな。布引山でしか見られなかった

ミヤマハタザオ

数が少ないので判断が難しい

クモマスミレ

咲き始めだと思うが結構咲いていた

チシマアマナ

花盛り

コメバツガザクラ

花盛り

イワウメ

咲き始め

ミヤマタネツケバナ

数が少ないので判断が難しい

シコタンソウ

まだ葉っぱのみ

シコタンハコベ

まだ葉っぱのみ

イワオウギ

まだ葉っぱのみ

イワベンケイ

咲き始め


 鹿島槍に最後に登ったのは昨年11月初めで、南峰から吊尾根への下りで積雪があって北峰には行かなかった記憶がある。あれから半年以上経過したが、6月中旬から下旬と言えば例年なら赤岩尾根最上部のガレ場のトラバースに残雪があり、アイゼン、ピッケルが無いと安全に通過できないのが普通である。基本的に赤岩尾根の登山道は尾根直上であり、ガレのトラバース区間付近のみが北側をトラバースしており、ここは雪が残る可能性がある。ただし針ノ木岳よりは距離がずっと短いので残雪の針ノ木岳に登れる実力があれば問題なく突破できるはずだ。それでも鹿島槍は針ノ木岳と比較して累積標高差が500m程度高く、できれば余分な荷物は担ぎたくないとの意識があり、私の場合は残雪がほぼ消えてから登るようにしている。

 近年はSNSのおかげで前の週末の様子が分かるようになった。今年は残雪が少ないと各所で感じていたが赤岩尾根も例外ではなく、先週末に赤岩尾根を登った記録ではガレ場トラバースの残雪は僅かで、軽アイゼンに軽ピッケルで行けそうであった。先週は蓮華岳+針ノ木岳+スバリ岳で累積標高差約1800mを歩けたため、それに+100mの鹿島槍に今年初めて登ることにした。ここが日帰りでクリアできれば、体力的にはコロナ前と同等まで戻ったと考えていいだろう。

 登山前日の金曜日に関東甲信は梅雨入りしたが、いきなりその翌日は梅雨前線が南下して1日限りの好天予報となった。標高3000mの気温予想は+8〜9℃、風速は3m/s前後で体感的にはほぼ夏山の状態だ。山頂でこの気温では下界は真夏の暑さで、長野市の予想最高気温は+31℃であった。ただし予想天気図を見ると明らかな高気圧に覆われているわけではなく、低気圧と低気圧の間の小さな高圧帯に入っているだけでどれだけ晴れるのか怪しい。鹿島槍でガスで何も見えないのは使う体力を考えれば避けたいところだが、体力測定と高山植物鑑賞だと考えれば許容範囲だろう。

 前日はいつもより2時間早く出発したのだが、国道19号線が事故渋滞(だと思う。パトカーと救急車がサイレンを鳴らしてすっ飛んでいった)で車が全く動かない状況となり、北へ大きく迂回して富士ノ塔山〜陣馬平山南側を通って笹平で県道に出ていつものコースに乗ったが、1時間近くタイムロスしてしまった。これはそのまま睡眠時間の短縮になってしまうので痛いが、4時間半ほど寝られるのでいつもの睡眠時間とほぼ同じだ。

 大町市街地を掠めて大谷原に到着すると車は皆無。まだ小屋が営業していないからなぁ。最もゲートに近い駐車場所を確保して酒を飲んで寝た。長野市内はかなり暑かったが、こちらでは思ったよりも気温が上がっておらず快適に寝られた。出発時まで他に車はやって来なかった。

 暑くなる予報なので早めに山頂に到着するよう計画を立案し、山頂到着を日の出の1時間後に設定して午前0時前に起床して朝飯を食って午前0時半に出発。私の場合、ノーマルな体力では鹿島槍南峰までの所要時間はほぼ5時間である。防寒着は最小限として長袖のフリースに薄手のウィンドブレーカとし、雨具を防寒兼用とした。ジャンパーやダウンジャケットを持たないのは中低山を除いて今シーズン初である。残雪装備は6本爪軽アイゼンに軽ピッケル。残雪区間はごく短いはずなのでロングスパッツは不要と判断した。暑さ対策は麦わら帽子に扇、濡れタオル。濡れタオルの給水も考えて水はいつもより多めの500ccを持てるようにしたが、給水は西俣出合で行うので出発時は空だ。出発時から半ズボン姿になるのは久しぶりだ。

 最初の林道歩きでは初めて発電用取水堰の照明設備が点灯して眩しいほどの光量だった。夜間工事でもやっているのかと思ったが無人であり、制御所でライトを消し忘れたか、何らかの理由で点灯しているかのどちらかだろう。林道終点で北股本谷に下って給水。この時期は雪解け水で増水しているので下山時の水浴びは問題なし。頭上は満天の星空で予報通り晴れて暑くなりそうだ。

 給水を終えて堰堤内トンネルをくぐって対岸へ渡り赤岩尾根に取り付くが、尾根にたどり着くまでの水平区間は草が茂って道にはみ出していた。夏山シーズンが始まるまでには刈り払いされると思うが、今の状態だと朝露に濡れていたら雨具が必要かも。

 尾根に乗って樹林帯に入れば草は消えて一級の登山道に変わる。相変わらずの急登の連続であっという間に体温が上がって扇の出番。まだ真夏ほどの気温ではないが、最近の中では間違いなく一番気温が高いだろう。それでも高度を上げるに従って気温が下がってくるのが体感でき、やがて扇は不要になった。東の遠い位置に見えている光は長野市から千曲市にかけての市街地の夜景だが、近場の大町や安曇野の光が見えないのは雲海が出ているからだろうか。さらに高度を上げるとこれらの町明かりが見えるようになった。

 高千穂平の標識を通過すればやっと傾斜が緩くなって森林限界が近くなる。まだ真っ暗なので稜線の残雪状況は見えない。夏山シーズンならこの時刻なら稜線に登山者の光が見えるはずだが、今は真っ暗である。白樺平の標識は地面に置いてあったが、小屋の営業が始まる頃には白樺の枝に掲げられるかな。この頃には頭上の星が見えなくなり、どうも雲が出てきたようだ。

 赤岩尾根の下部では既にイワカガミの花は終わっていたが、ある程度高度を上げるとまだ花が残っていて、赤岩尾根上部では花盛りだった。高千穂平の標識を越えるとゴゼンタイバナ、ツマトリソウ、マイヅルソウが目立つようになる。特にツマトリソウは今が盛りであった。今年初のニガナとシロバナニガナも登場した。

 赤岩尾根上部のガレ場に近い区間は尾根の北側を巻くように登山道が付けられていて、昨年秋にはここから雪が登場したが今は全く雪は無し。そのまま最初のガレ場に出たら既に雪渓は後退して登山道が完全に出ていた。次のガレ場は残雪がまだあったが、驚いたことにスコップで雪切がされていた。それに気温が高くて雪が緩んでいたのでアイゼンを使わないで横断できた。

 雪渓を横断して冷乗越へとトラバースする途中で軽ピッケルをデポ。アイゼンもデポするか悩んだが、もし北峰を往復する体力が残っていた場合、吊尾根の僅かな残雪でアイゼン無しで突破できないなんてことになったらもったいないので、アイゼンはそのまま持っていくことにした。結果的には吊尾根では出番は無かったが、別の場所で出番があったのでこの判断は正解だった。

 冷乗越へ到着してもまだ暗い時間帯だったが、東の空は既に白み始めていた。ライトを使う時間はあと30分も無いだろう。ここから爺ヶ岳方面を見ても光は見えず、まだ柏原新道からの登山者は上がってきていないようだ。立山、剱岳には全く雲がかかっていなかった。

 鞍部を通過して登り返して冷池山荘前。もう今年の営業準備が始まっているはずだが、この時間はまだ寝ているようで明かりは無し。でもドアや窓の雪囲いは外されていた。今年の営業開始は7/1の予定だが、直前の週末の6/28,29,30はプレオープンとして人数を減らして宿泊可能とするようだ。

 テント場に向けて登っていると、爺ヶ岳北峰を越えた付近に明かりを発見。柏原新道からの本日最初の登山者らしい。私との時間差は20分くらいだろうか。相手のスピードが分からないので追いつかれるかも今は分からない。この南向きの登り坂だけでミヤマキンポウゲが咲いていた。もっと先にはいつもミヤマキンポウゲのお花畑が出現する場所があるが、そちらではミヤマキンポウゲの芽さえまだ出ていなかった。

 テント場は無人であった。この頃からライト不要な明るさになった。

 テント場を通過するとしばらくは登山道は稜線東直下に移るが、例年だとこの区間が最後まで雪が残る場所。雪質によってはアイゼンがあった方がいいこともあるが、赤岩尾根の雪は完全に緩んでいたのでアイゼンは不要だろうと思ったが、最初の残雪帯は歩く必要はなく、次の残雪帯は雪切りされていたが雪はカチカチに締まってツルツルで、雪切りされていても僅かな傾斜があって滑りまくる。さすがにこれではアイゼン無しでは厳しいだろうと50m程の距離だけアイゼンを付けた。夏場はミヤマキンポウゲのお花畑になる登り傾斜で夏道に乗ってアイゼンを脱いだ。ちなみにここにはまだミヤマキンポウゲはまだ芽が出ていなかった。まあ、今でも残雪があるくらいなので、遅くまで雪が残って開花も遅いのであろう。

 登山道が稜線西側に移行してハイマツ帯に入って再び森林限界を突破。背後を振り返るが登山者の明かりは既に見えなくなっていたので距離が詰まったのか分からない。まあ、こちらは急ぐわけではないので追いつかれようが気にしないが。この時がちょうど日の出の時刻であり、東の空の水平線付近は雲海に覆われていると思っていたが、黒っぽい空気を通して太陽の輪郭が見えたので空気の淀みの層だった様だ。太陽よりずっと南側、志賀高原の横手山と裏岩菅山の間に日光連山が見えていた。ここからだと横手山のすぐ北側に男体山が見えるが、これが今回の最も遠い山であり直線距離で170km近くあるはずだ。裏岩菅山と苗場山の間には尾瀬の燧ヶ岳と至仏山が見え、苗場山の左側には平ヶ岳が見えていた。この時期にこれだけ見えれば文句はない。

 布引山への登りでは既にミヤマキンバイとハクサンイチゲが花盛り。ミヤマキンバイは全株が一斉に咲くというより割とバラバラに咲く傾向があり、それなりに長く花が楽しめると思うが、ハクサンイチゲは一斉に咲いて一斉に終わってしまう印象が強く、この感じでは7月上旬には花が終わってしまいそうだ。布引山直下に達して振り返っても眼下の登山道に人の姿はまだ見えなかった。

 布引山山頂に達するとようやく鹿島槍山頂(南峰)が見えるが、そこに続く稜線上には雪は無いようだ。それどころか西に派生する尾根上にある牛首山までもほとんど雪は残っていないようだ。ここは雪が無いとハイマツの藪が酷いだろう。布引山山頂東直下には今年初のハクサンチドリが咲いていた。もっと季節が進めばテガタチドリやハクサンフウロなどが咲くだろう。

 布引山から先はハイマツが消えて傾斜が緩い西斜面はお花畑に変わる。最も目立つのはハクサンイチゲで既に満開状態だった。元々ハクサンイチゲは高山植物の中では開花が早いが、この時期にここまで咲くのは珍しいのではないか。黄色い花はミヤマキンバイがほとんどだがクモマスミレも混じっていた。風に揺れる小さな白い花はチシマアマナで、ハクサンイチゲ以上に早い時期に開花するので梅雨の早い時期でないと見られない。アブラナ科らしい形状の小さな花は、葉っぱの付き方からしておそらくミヤマハタザオだろう。ハタザオの仲間は葉っぱの付け根が茎を巻くようになっているのが特徴だ。

 稜線東側はまだ雪が残っている場所が多く花はこれから。ここは稜線西斜面とは異なる種類の花が咲くのでシーズン中は見逃せない場所になる。

 花を愛でながら登っていき、南峰直下からいきなり傾斜がきつくなる。砂利が積もった斜面に付けられたジグザグの登山道にも全く雪は無い。昨年秋には下りでアイゼンを使った山頂直下にも雪は全く無かった。登りきると無人の鹿島槍南峰山頂に到着。上空には薄い雲が出ているがほんの僅かに日差しを弱めるだけでほぼ晴と言っていい。風は弱く気温は高めであり、予想通り防寒具無しでも寒さは感じなかった。それどころか半ズボンのままでも大丈夫なくらいであった。

 予想通り大谷原からここまでほぼ5時間かかったが、体力的にはまだ余裕があったので北峰を往復したいところ。南峰から北峰に繋がる吊尾根を見下ろすと目立った残雪は見られず、この分なら危険個所は無さそうだと判断。軽アイゼンは要らないだろう。吊尾根にはここまで見てきた花とは別の種類が咲いているので、この時期なら足を延ばしたいところだ。

 アイゼンが不要そうなのでザックはデポして空身で往復することにする。下りでは運動量が減って寒くなるかもしれないので、上にはウィンドブレーカを羽織って軍手を着用。頭は毛糸の帽子の上に日除けの麦藁帽子を被った。

 岩が多い急な下りには全く雪は無く安全に下れた。最後の岩壁帯にも雪は無く平坦な尾根の入口に着地。そのすぐ先で登山道が僅かに南を巻く箇所で雪が登山道を覆っていたが、ここは残雪上端よりも上を迂回したので雪は踏まずに済んだ。吊尾根では登山道にかかる雪はここだけであった。

 吊尾根で目立つ花はミヤマキンバイにハクサンイチゲとイワウメ。花が小さくて目立たないがコメバツガザクラ、ウラシマツツジも咲いていた。先週の針ノ木岳ではコメバツガザクラはほぼおしまいであったが、ここではまだ花盛りだった。まだ数は少ないがキバナシャクナゲも咲いていた。最低鞍部南側はお花畑になるが今はまだ雪の下で、雪の縁に一株だけシナノキンバイが咲いていた。

 キレット方面の縦走路と分かれて北峰山頂へ。どちらの道にも雪は全く見られなかった。登り切って鹿島槍北峰山頂に到着。山頂標識は昨年も倒れていたような気がするがまだそのままだった。東の眼下にはカクネ里雪渓が見えているが、数年前の調査でここは氷河であると判明している。しかし昨年秋にはほぼ雪が消えてしまっていたので、おそらく氷河は消滅してしまったと思われる。今年は積雪が少なく雪解けが早いので、秋になれば氷河が残っているかはっきりするだろう。

 山頂で360度パノラマ写真を撮影して軽く飯を食って小休止していると北側にヘリの音が。眼下のキレット小屋でホバリングしていたので、おそらく小屋への荷上げか人の輸送だろう。そろそろ小屋明けの準備に入る時期である。ヘリは何度か飛んでいた。休憩を終えて出発しようかと思ったら山頂に一羽の雷鳥が出現。僅か5mほどの距離しかないが人間を全く恐れるそぶりは無く、草をついばんでいた。この時期でつがいでないのでは、今シーズンの繁殖は望めないかな。

 休憩を終えて花の撮影をしながら南峰に戻ると単独の男性が休憩中。明け方に見えた光の主だろう。話を聞くとやはりそうで、柏原新道を登ってきたそうだ。あちらでも谷筋で雪が残っているがきれいなトレースができているとのこと。赤岩尾根で雪切されていたので柏原新道も同じかと思ったらされていなかったとのことだった。でも小屋が営業開始する直前の来週には実施されるだろう。私が北峰を往復してきたと話すと、私と同じく空身で北峰に向かっていった。

 展望を楽しみつつ南峰でも休憩。まだ奥日光や尾瀬の山々は見えていた。どうやら前線の北側の乾いた空気に覆われて真夏より空気の透明度がいいようだ。南アルプスは深南部の中ノ尾根山まで見えていた。尾瀬の左側には利根水源山脈が見えるはずが空気が澱んだ層に沈んで見えず、越後三山の中ノ岳と越後駒ヶ岳の頭だけが僅かに見えていた。本当に空気の透明度がいい時ならばさらに左に南会津の村杉半島や中越の毛猛山塊、御神楽岳と見える可能性があるが、今日は無理そうだ。でもこれだけ見えれば大満足だ。

休憩を終えて下山開始。見下ろす縦走路には人影は見えないままだった。布引山を越えて森林限界ぎりぎりのハイマツ帯の平坦な尾根を南下しているところで本日2人目の登山者に遭遇。まだ人が少ないねぇとしばし立ち話をする。縦走路が稜線東に移って登りでアイゼンを使った雪渓の雪はすっかり緩んで、下りでもツボ足で問題なかった。雪渓の先の無雪地帯でさらに2人とすれ違い、ここでもまた立ち話。人が多いとこんなことはやらないが、これだけ少ないと盛り上がってしまう。

 テント場を通過して冷池山荘に達すると、小屋の中ではテーブルを準備したりと小屋明け作業の真っ最中であった。一週間後にはプレオープンである。鞍部から冷乗越へと登り返すと冷乗越で柏原新道から下ってくる男性に遭遇してここでもまた立ち話に花が咲く。今日柏原新道を上がってきた人の大半は爺ヶ岳までで、おそらくこの人が鹿島槍往復の最後ではなかろうかとのことだった。

 赤岩尾根に入ってデポした軽ピッケルを回収してアイゼンは付けずに残雪を横断。ガレ場では今回唯一のチングルマが咲いていた。テント場先の雪が覆っていた付近がこのコースでは一番チングルマが多いが、あちらはまだ雪解け直後で葉っぱも出ていなかった。ちなみにチングルマは草ではなく木で、葉が出ていないと地を這う灌木の枝にしか見えない。ツガザクラやミヤマダイコンソウもちらほらと咲いていた。ガレを通過して尾根に乗るとヨウラクツツジの花も。ミツバオウレンの花は稜線でも見られたが、赤岩尾根上部でも咲いていて広い範囲で見られた。

細い尾根を下っていくと登ってきた男性に遭遇してこれまた立ち話(笑) 昨年大町に引っ越してきて山を始めたばかりとのこと。今年は赤岩尾根は既に高千穂平までは登ったことがあるとのことだった。今日は鹿島槍山頂まで足を延ばすのかは聞かなかったが、この時刻なら十分に可能だろう。山のついでに高山植物も覚えたらと言っておいた。ちょうど左手の斜面にはシラネアオイが咲いていて、目の前には今シーズン初のヨツバシオガマが。

 男性と分かれて下りながら花の写真撮影を行う。ツマトリソウ、ゴゼンタチバナ、マイヅルソウ、コケモモ、アカモノ、ハクサンシャクナゲ等。ゴゼンタチバナは通常の白い花の他に緑色の個体も結構見られた。コケモモはまだ咲き始めでこれからがピークだ。タニウツギは林道でも見られたが標高2000m以上でも花が咲いていた。こんな高い場所で見たのは初めてだった。

 標高が落ちてくると気温が上昇するのが肌で分かるようになり汗が出てきたので濡れタオルの登場。稜線では雲が出て日差しがかなり弱められていたが、赤岩尾根を下っていくと逆に雲が薄くなって日差しが強くなっていた。ただし樹林帯が多いので麦藁帽子はザックの裏に括り付けたまま歩いた。階段には手摺が設置されているが、秋が深まって小屋の営業が終わるときに手摺は撤去されるので、これが設置されたということは今年の整備の手が入ったことを意味する。登山道整備はそれだけではなく、昨年無かった場所に木の階段が新設されたりと昨年よりもグレードアップしていた。それでも地形そのものは急であり、柏原新道よりは歩きにくいのは仕方ないだろう。おかげでいつでも静かに歩けるのがありがたい。

 赤岩尾根をだいぶ下ったところでトレランと思われる軽装の男性とすれ違った。トレランだったらこの時間でも山頂まで達することができるかな。ただし暑いだろうなぁ。

尾根末端付近で左にトラバースして北股本谷の堰堤へ向かう途中でズダヤクシュを発見したが、もう花はほぼおしまいで種を付けたものが多かった。堰堤内トンネルを通過すると折り畳み自転車のデポを発見。ここまで自転車を押さずに乗って上がってきたとしたら、一山登ったのと同じくらいの体力を消耗しただろう。自転車をこぐのに使う足の筋肉と山登りで使う筋肉は同じである。値段が張るが今の時代は電動アシスト自転車を利用するのがいいだろう。

 下りで汗をかいたので林道終点で北股本谷に下って水浴び。この短い道は私が昨年藪を刈って道を整備したが、それがまだ生きていて藪は薄いままだったが、今年新たに生えた草がはみ出してきたので次に来るときには鎌を持ってきてまた刈っておくか。沢の岸には水量観測機器が新設されていてちょっとびっくり。でも電線やアンテナは見当たらず、測定結果を外部に伝送する手段が無いような。もしかしたら測定器内部にメモリカード等の記憶媒体があって観測結果を記録し、適当な時期に人が回収にやってくるのかも。太陽電池は見当たらないので電池で動いていると思われ、ある程度の期間が経過すると電池交換が必要だろうから、それと同時に行うのかもしれない。

 濡れタオルを沢に浸して全身の汗を拭き取ると、気温は変わらないのに涼しさ倍増で快適! これだから暑い時期の下山後の水浴びは欠かせない。この後もまだ林道歩きが残っているが傾斜が緩やかな下りであり、汗をかかないようにのんびり歩けばいい。林道終点は毎年コゴメグサが見られるが、今はまだシーズンが早すぎたようで芽も出ていなかったが、真夏になればたくさん出てくるだろう。

 無人の林道をできるだけ日影を繋いで下っていく。赤岩尾根を下り始めた時は完全に曇っていたが、今は雲が多いものの晴れて日差しが強い。そろそろ大谷原が近いところで土曜日でも伐採作業が行われていた。通常、雪が多い所ではあまり植林は多くないが、この周辺では傾斜が緩い所では杉の植林が見られた。伐採された木は一定の長さに揃えられて林道脇に積まれていたが、木の種類毎に分類されていた。杉だけではなくブナ等の広葉樹もあったので、単純に植林された区画だけを伐採しているわけではないようだ。

 大谷原駐車場手前のゲートは開いていたが、代わりにダイヤル鍵で施錠された鎖が道を塞いでいた。伐採作業で車が入っている間はこうしているようだ。大谷原左岸駐車場には私の車を含めて3台が駐車していて、出発時から2台増えていた。右岸側にも同じ程度の台数が止まっていて、すれ違った登山者数よりも明らかに数が多い。全てが登山者ではなく釣り等も含まれているのだろう。西俣出合で水浴びして汗を拭き取っておいたので、車に到着してからは着替えるだけですぐに帰途に付いた。


 今回のルートは累積標高差約2100mで、いつもよりは少し疲れたものの体力を使い果たすレベルまで達する前に歩きとおせたので、コロナ前の体力にほぼ戻ったと言っていいだろう。これで今年も昨年同様に心置きなく北アルプス日帰りを堪能できよう。長野県も梅雨入りしたが、例年だと梅雨の前半は梅雨前線は日本の南岸近くにいることが多く、日本海側に近い後立山北部は前線の影響を受けにくいので、毎週登山が継続できるかな。今年は思ったよりも高山植物の開花が早いので、来週は白馬岳を再訪するかな。

 

山域別2000m峰リスト

 

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